
撮影:安齋重男
はじめて越後妻有下条のあの棚田に立ったとき、そこから何かの気配を感じました。心の奥にしまわれていた何かが、棚田に触発されて湧き上がってきたのです。かつて西行が伊勢拝殿前で詠んだと伝えられる和歌に「なにごとのおはしますかは知らねども かたじけなさの涙こぼるる」とありますが、まさにそれでした。棚田の何かが在るのです。まずその気配を、田の土中から引っ張り上げる仕事をしました。まるで自分の記憶の中に持っている、どこにでもあった形や、何となく見覚えのある、かつてふれたことのある物、嗅いだ覚えのある植物など、五感の中に生きていた記憶を引き出したようでした。実風景の中、棚田にそんな居心地の良い風景、盆景を存在させ、そして、一定期間が過ぎると、祭が終わったように盆景も元の静かな棚田の風景に戻ります。観た人の記憶に留まることを期待しながら。
日本
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