雪のスタジアム2013 雪原テルメ

妻有日記投稿日:2013年03月26日

遠く離れた北欧の国、フィンランド。北半球のきびしい雪国という点で、越後妻有とは似たところがあります。フィンランドでは、サウナは昔から人々の生活の中心にありました。リラックスして体を洗うことのほかにも、時代によって次のような活用のされ方をしてきました。住居・出産・葬儀前の遺体の保管・病気の治療・スポーツや戦争で負ったけがの手当て・病や罪の浄化・料理・政治的関係の構築・重大な取引や契約の交渉 …などなど。まさに人の生き死にをサウナが見届けてきたのです。
雪のスタジアム」のまつだい「農舞台」会場では、フィンランドサウナの心を受け継ぎ、越後妻有の雪原をおもいっきり楽しむべく、「雪原テルメ」を企画いたしました。

「テント式サウナ」
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歴史上最初のサウナは土に掘った穴に動物の皮をかぶせたものにすぎず、約1万年前に終わった氷河期の後にフィンランドへ移ってきた狩猟民族が使っていました。このシンプルなサウナでもやはり、火で焼いた石の上に水をかけて蒸気を上げていました。
穴サウナにはテント式サウナというモダンな子孫があり、穴サウナと同様、持ち運びが簡単。遠距離ドライブや登山など自然との交流の手段として、フィンランドでは活躍しています。
今回この本格的なフィンランドのテント式サウナを提供してくださったのは、公益社団法人日本サウナ・スパ協会のみなさま。小高く雪を盛ったテルメ会場一角に、前日の夕方、いとも簡単に2基のサウナを設置。薪ストーブに火を入れると、細く少し斜めに伸びた煙突から、燻された匂いの煙が冬空に昇っていきます。雪の大海原にすっくと立つ姿は印象的。窓からは、高橋匡太さん作品の光の畑と、遠く松代の冬景色が臨めます。

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当日は猛吹雪。農舞台周辺にある作品をみてまわったお客さまは、服と靴のままテント式サウナに入り、暖をとりました。ファスナー式の入り口を開けて入ると、中は蒸気で覆われていて眼鏡もくもるほど。木製のベンチに座ってストーブを囲みます。ストーブで焼いた石の上に水をかけて蒸気を出す「ロウリュ」、白樺の枝を束にして水に浸し、体を叩いて肌の血行促進をする「ヴィヒタ」。そしてサウナの片隅には、木で彫られたサウナの妖精が。ストーブでは目玉焼きやソーセージも焼いちゃいます。

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しばらく中にいると、体の芯からじんわりと温まり、外に出ても冷めることなくこの温かさが続きます。フィンランドでは標高4000mの山や氷点下の湖のほとりにサウナを設置。大自然の中で心静かに入る、テント式サウナの醍醐味なのです。 中には長居して暑くなってきて服を脱ぎだし、雪上にダイブずる人も!そう、体の緊張はサウナの温度によって解きほぐされ、その後雪や湖にとびこんで急激に体を冷やすことでホルモンの分泌はより活発になります。これらの行動を交互に行うことによって新陳代謝の高まりが期待できるのです。 暴風雪の中、簡易に組まれたテント式のサウナは時々風にあおられながらも大地にふんばり、みなさんの冷え切った体と心を温め、まるで荒野の中の隠れ家のようにホッとできる空間となりました。
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流下式サウナ「室(ムロ)」
フィンランドと同じくサウナ文化の発達したドイツでは、バラの根っこで覆われた空間に温泉水を流し、空気中に発生したイオンを体に取り入れるという、知る人ぞ知る健康法があります。今回越後妻有ではこの仕組みをお手本にしつつも、地元ならではの素材を活かしたサウナをつくることとなりました。塩化物泉である松之山温泉を杉の葉に伝わせる。杉の葉には塩分が留まり、残りのマイナスイオンを空気中に漂わせ、それを吸い込むことによってリラクゼーション効果を上げられたらいい、そういった実験的な試みです。

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構造体の設置は、まさに雪との闘いでした。積雪3mの雪中を2m分、重機でかまくら状にくり抜き、そこに構造体を組むのですが、工期中何度も雪が降っては作業を中断し、除雪してから再開するというくり返し。外側のテント生地を張ってからも屋根に積もる雪や風の心配が堪えません。また温泉を流す部分は温度で雪が融けてしまうため、構造体の下には土台を敷き、排水溝まわりは波板で断熱するなどの工夫が必要でした。そういった雪に対するアイデアのひとつひとつを地元の方からいただきました。
作業の中心となったまつだい案山子隊のみなさんには、「雪のこわさを何も知らない。」と何度もあきれられながらも、本番の朝まで根気よく作業していただきました。雪国での建築は、松代に生きる父ちゃんたちの知恵と熟練の技の結晶です。

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温泉水は日本三大薬湯である松之山温泉の源泉をナステビュウ湯ノ山さまよりご提供いただきました。源泉は約90度。それをタンクに入れて運んできて、一度雪で冷ましてからポンプによって穴の開いたホースに送りこみ、お湯を流します。案山子隊の中には三六さんという設備専門の心強い助っ人もいて、「室(ムロ)」の発案直後より一緒に実験をくり返して湯量や湯温、蒸気の出ぐあいなどの調整をしてきました。 そしてその温泉水を流すのが4m×6m、高さ2mの杉の葉の壁。畳約25帖分もの途方に暮れるような量の杉の葉作りを、こちらも案山子隊、こへび隊が中心となって会期前日まで作業してくださいました。松代の山中で杉の枝打ちをし、それをさらに細かい杉の葉に分け、仕上げにていねいに花粉取り。人の手が最もかかった部分です。

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「室(ムロ)」の空間はモンゴルのパオのように、外は簡素でありながらも中には色や生活の温かみがあり、包まれているように落ち着く、そんなイメージをもって設計しました。
かまくらのように雪に囲まれた「室(ムロ)」の中に入ると、四周に張りめぐらせた杉の壁に、温泉水が音をぴちゃぴちゃとたてながら滴ります。お湯は杉の葉にあたることでミスト状となって空間を満たします。松之山温泉は薬のような香りを持ち、それが杉の葉の香りと合わさることでさらに独特の香りのハーモニーを奏でます。 深呼吸をすると、まるで森林浴をしているよう。家族連れの方々や若者同士のお客さま、一人でいらした方も地元の人たちもみんなで足湯を囲み、ハーブティを飲みながらお話しする。荒れた天候の中、二度も三度も戻ってきて休憩される方もいました。みなさん思い思いにくつろいでいかれました。

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雪原テルメ設計担当 早川知子
*引用文献:「sauna-フィンランドのこころ」 ケイヨ・タスキネン

 

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