「夢の家」と上湯集落の13年

妻有日記投稿日:2013年09月30日

日本三大薬湯で知られる松之山温泉街からさらに山を分け入った上湯(うわゆ)集落に建つ「夢の家」。2000年、旧ユーゴスラビア出身の作家、マリーナ・アブラモヴィッチによってつくられた、古民家を改装した宿泊施設です。




宿泊者は、作家デザインの浴槽で身を清め、黒曜石の枕付きの木製ベッドで、作家デザインのパジャマを着て、赤・青・緑・紫の色ガラスがはめこまれた夢を見るための部屋で眠ります。翌朝、見た夢をベッドに備え付けの「夢の本」に綴る…ここまでがアート体験であり、作品です。

この夏、13年目を迎えた「夢の家」。2000年9月から現在まで管理人を勤める高橋恵美子さんにお話を伺いました。

(以下、高橋さんのお話)
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「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2000」で「夢の家」ができた当時は、集落の人たちは「わけのわからないものができた」と遠巻きにして見ていました。物陰に隠れて、出入りする人を覗き見しているような感覚だったんです。私自身も、正直、こんなところに人がくるわけがない、と思っていました。でも、以後3年ごとに大地の芸術祭が行なわれるごとに訪れる人が増え、集落の人々の反応にも変化が表れたんです。

2003年には、隠れることなく、自分から姿をあらわして見るようになりました。2006年には、村人のほうからお客さんに「どこから来たの?」と声をかけるようになった。都会から来られた方の中には畑に実っているキュウリやトマトを見たことがない、という人もいらっしゃったので、おみやげにとれたての野菜を持っていってもらったりして、交流が生まれたんです。

その頃から、「夢の家」に対する集落の人々の見方が変わったんですよ。何もない、過疎の集落に県外から人がやって来るのが、とてつもなく新鮮で、うれしいことだったんですね。「今日、道でこういう人に会ってさ」「へえー」と、お茶のみの席で話題になるようになったんです。

昨年(2012年)から、造園作家の川口豊さん・内藤香織さんが、夢の家の庭の手入れを手がけるようになって、とてもきれいな花を咲かせるようになったんです。その花を集落の人たちが見に来るようになったんですよ。2000年の状況から考えると、ものすごい変化ですね。



最近やっと、ここはマリーナ・アブラモヴィッチにとって理想の家だったんだな…と理解できるようになりました。山が見え、木々があり、緑の田んぼの中にぽつんとある空家。夏は緑が濃く、スキー場と変わらないくらい標高が高く、涼やかな風が吹き渡る。夢の家を訪れるお客様が、「癒される」「ここは違う時間が流れている」とおっしゃる。

私は上湯集落に住んで20年になりますけど、ほんとうに、ここで仕事をしていると心が落ち着き、幸せだと感じます。

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十日町の市街地から松之山温泉、そして「夢の家」へと車を走らせていると、まるで違う世界に紛れ込んだような感覚にとらわれます。あわただしい現代生活の中、「自分自身と向き合うために、夢を見てほしい」とのマリーナ・アブラモヴィッチの願いから生まれた「夢の家」へ、ぜひいらしてください。

スタッフ タナハシ

*「夢の家」の2013年度の宿泊・ご見学は11月4日(月祝)までとなります。(見学は土日祝のみ/10:00〜16:00)