まつだい「農舞台」ギャラリー イベントレポート!

まつだい「農舞台」投稿日:2015年03月22日

【限界芸術一〇〇選#2】-4月19日までまつだい「農舞台」で開催中の展覧会、関係性の美学展関連イベント「小野田賢三さん、藍さん親子と行く!越後妻有」について、サポーターとして参加した菊池由紀子さんからレポートを寄せていただきました。

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西尾美也さん                        小野田賢三さん                     吉村大星さん

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2月21日(土)から22日(日)にかけてツアーイベントを開催しました。積雪4m、当日は雪と聞いていたところ、二日間とも快晴に恵まれ、参加者総勢12名のみなさんは顔をほころばせました。ここでは盛りだくさんのイベントを、時系列でご紹介します。 21日午後、まず本展の企画者である美術評論家の福住廉さんによるギャラリートーク。参加作家の吉村芳生・大星親子、西尾純一・美也親子の作品について解説をしていただき、小野田賢三・藍親子については、ご本人自ら作品についてお話されました。

ギャラリートークについて


展示風景 2014.11

一昨年亡くなられた吉村芳生さんは、現在のように世間に大々的に評価されるまでは、人知れず自画像を延々と描いていた画家です。新聞記事の上に描いた自画像などの代表作が展示されています。またジーパンの版画作品≪JEAN-E≫(1984年)は写真をマス目で区切り、それぞれのマスの濃淡を数字に還元した上で版下に拡大しながら再現しているという解説に、参加者の口からはほ~っとため息が聞こえてきました。 息子の大星(たいせい)さんは、芳生さんのこの方法を踏襲しながら、自宅の周りにいるノラ猫を色鉛筆で描写した作品3部作を展示しています。同じように見えますがタイトルが3つあるように違う点があるのでじっくり見て楽しんでくださいとのこと。それぞれ思い入れを投入しているので3点とも違うという本人談も想像力をかきたてました。特筆すべきは本展で初公開の芳生さんの未発表作品であるインド滞在中の自画像の数々。これは福住さんご自身が吉村家のアトリエを訪問した際に大星さんが見せてくださったものだとか。

 
福住廉さん                                                  西尾純一さん

西尾美也さんの作品《家族の制服》(2006年)は、子ども時代に撮った家族写真とその20年後に同じ服装とシチュエーションで撮った家族写真とその服飾一式を展示したもの。越後妻有アートトリエンナーレ2009年では≪家族の制服 金子家≫の作品を十日町市の田園風景の中で展示したことがあります。お父さんの純一さんは、企業をリタイアされた後西尾工作所を起業し、ミシンの精密部品を作っておられた方です。ところがXboxというゲームに夢中になって、以前乗っていた車と同じ型のボンネットから内装までそのままそっくり一室に再現し、座席に座りハンドルをにぎると目の前にあるモニターでXboxのゲームを楽しめる装置を作ってしまった。他にもYouTubeに膨大な数の映像作品を投稿されています。現在140本を超えたとか。技法を忠実に継承する吉村親子や、それぞれ興味も方法も異なる西尾親子のように、関係性の幅広さを知ってもらえたらとのことでした。 「福住さんの説明を聞いたので作家さんのことが想像出来ました。例えば、西尾純一さんの自作ゲームを展示したかったけれど、遊びたいからという理由で断られたという話は、美也さんの作品のユニークさを上回る奇抜な面白さでした」、「親子という関係を通して両方の作品をみることで、その親子の間に何かを見つけようとしている鑑賞者の自分がいるということを感じたり、何より吉村芳生さんの作品を観ることができたことが嬉しかったりということもありましたが、その他に普段接することのない方々と出会いお話ができたことが本当に良かったなと思いました」参加者談。



小野田藍さんからは自身が制作されている≪アートナウジャパンー日本のアーティスト100人―≫というフリーペーパーについてお話をうかがいました。ここで紹介しているのは、藍さんが出会った、アーティスト、批評家、全くアートに関係ないけれどクリエイティブな活動をされている方々で、いずれも肯定的に記述することを自分に課すことで、藍さん自身が作品を通して何を感じ考えるかというトレーニングにもなっているとのこと。基本的には綿密な取材なしに1500字前後で書かれています。壁にかけてある100ある画板に各号が貼り付けられていますが、藍さんは会期中に100号まで完成するように頑張ると笑っておられました。PCで作成した原稿をあえて手書きに書き直してあり、会場にあるコピーは全て1枚ずつ持ち帰ることができます。



小野田賢三さんは大学卒業後、NTTでコンピューターのプログラム設計などをされていました。退職後40歳でアーティスト活動を始められ、出身地の前橋を中心にドイツでの個展、白川昌生さんとの《沼垂ぬったりラジオ》水と土の芸術祭(2012年)、他映像作品などがあります。今回賢三さんは親子の関係性というと昨年亡くなられた日本画家の父親と藍さんとの3代を含めて考えました。特に父親の存在をこの展示を通して再確認する機会になった、父親の画風は風景画から仏画になり、最後はお地蔵さんを描くようになったと古民家を模した展示会場を案内しながら話されました。お父さんの仏画の下に賢三さんのミニマルアートの映像作品が配置され、夕方になると映像作品の光で会場の雰囲気が一変し、まるで祭壇のように感じられました。

ワークショップ①版木でフロッタージュ



ワークショップは賢三さんのお父さんが残された膨大な数の版木を用いて、地元松代の伊沢和紙と色鉛筆を使って自由にフロッタージュするものでした。何枚選んでもいい、版木の一部分だけ使ってもいい、自由に構成しお父さんの絵をなぞりながらコラージュして表現していきます。オリジナル版木を使ってのめったにないワークショップです。 版木を選び、どういう構図にしようか考えながらお父さんの好みやどのように木版画を作られていたのかなど想像しつつ、原画とは異なる参加者の表現したい絵が浮き上がってきます。 「動物の絵が多いね」「ふくろうがいっぱい」など参加者の間でも発見があり、展示されている作品と見比べる方もおられました。

   
   

ワークショップ②権兵衛さんの歌声を聴きに集落のお宅訪問



次に松之山の集落の奥に住んでおられるカラオケの達人権兵衛さんのお宅へ。権兵衛さんは福住さんが企画された里山の限界芸術シリーズのひとつ、「越後妻有シルバーアート2013」に 参加された方です。車を道端に置き深い雪の中を権兵衛さん宅まで歩くと、たくさんの美味しそうな手作りのお惣菜にご飯の支度までしてくださっていて思いもかけぬ歓待を受けて私達はびっくり。 権兵衛さんご夫婦もこんな大勢でワイワイと押し寄せた私たちを「まぁまぁ、とにかく暖まって」と心優しく迎えてくださいました。これも福住廉さんと農舞台担当者の新井沙織さんが日頃から交友をあたためてこられたから実現できたこと。なかなか初対面で個人のお宅におじゃまするなどかなわないことです。権兵衛さんは初めのうちは、並んだ2つのこたつにきゅっと座っている参加者におかずを勧めてみたり、声をかけていましたが、いつしかそれがMCになり、「では、みなさんは知っておられるかなぁ」と増位山太志郎「そんな女のひとりごと」などをしっとりと歌いあげました。茶の間から一旦廊下に出て、レーザーディスクを取り換えて、また廊下からマイクのある茶の間に入る~という廊下を袖に見立た演出にまわりを湧かせました。薄暗い古民家の中で、天井の小窓からの薄明かりが権兵衛さんのお顔を浮き上がらせ、その脇にいる賢三さんがこれまたいい声で、気持ちよさそうに小さく口ずさんでおられて不思議なグルーヴ感。別れ際に権兵衛さんは少し神妙な面持ちで、おもむろにこれからの若者の生き方を憂うと話されたのが心に残っています。大勢の使った食器を洗いましょうと何人かがおばあちゃんに声をかけると、まぁいいからと手を頭の上でふって笑われました。まるでおじいちゃんおばあちゃんちに遊びに行ったような余韻を残して次は湯田温泉「ゆのしま」へ。 ≪シルバーアート2013≫で権兵衛さんの映像を見ている参加者からは、「映像では丁寧におじぎをする姿が印象的で自作のCDジャケットの本気さが面白かったのですが、直接お会いして一番びっくりしたのは、ホスピタリティにあふれて人を気にしていらしたのに、歌が始まると一瞬にして自分の世界に入ったように見えたことでした」とのこと。

 

その後は宿泊先の「脱皮する家」で鍋をつつきながら、小野田さん親子と福住さんを囲んでアート談義で夜が更けました。「小野田親子と色々お話をし飲んでいるとき、賢三さんが『作品は自分のものだけど、自分は他人から出来ている』 とおっしゃって、展覧会や権兵衛さんの家で感じた「人との関係」がシンプルな言葉に凝縮されていたので、やっと腑におちて「なるほどそういうことか」と感激しました」、「小野田賢三さんが40歳で会社を辞めてアーティストになったお話は、自分にとってとてもよい刺激になりました。美術というくくりは抜きにして、生き方についてのよいヒントを頂いたという気がします」参加者談。


脱皮する家での朝ごはん風景

里山かんじきツアー

 
                                                                野ウサギの足跡発見

翌日も快晴に恵まれ、かんじきツアーを開催中と聞いて希望者は1時間程度の里山散歩に出かけました。農舞台脇の城山の中腹まで登り、シモン・ビールの雪だるまの小屋の横からカバコフの棚田を降りてくるだけなのですが、雪に足をとられ思うように進まない。汗ばむような陽気の中、ガイドさんなしには体験できない貴重な時間でした。写真では遠くに農舞台が見えます。

sanpo パフォーマンス 村田青朔



その後、イベントに参加されていた舞踏家、村田青朔さんによる月1回各地で即興的にパフォーマンスをするsanpoがゆるやかに始まり、参加者もしばらく雪原でのsanpoを堪能しました。



次に光の館へ。冬季は雪の為屋根が開閉できない日が多いのですが幸運にも、この日は快晴。タレルの世界観を満喫することができました。写真は光の館からの眺望で、春先から木々が芽吹き森の中にいるような風景に一変します。最終目的地はキナーレ。週末は雪祭りでほくほく線が大変混雑しており、地元の方も「こんなことはめったにない」と笑っておられました。 参加者の感想の中には「盛りだくさんの今回のツアーはギュッとにぎった美味しいオニギリのようで、ご馳走さまでした!」とか「大雪で、しかもキャンプに近い宿泊は「ちょっと面倒くさい」っていう気持ちもあったけれど、思い切って行って正解。参加者の方々と、お風呂に入ったり、ごはんを作ったり、脱皮する家の渦(2階の部屋にある)を囲んでおしゃべりしたり、かんじきで雪山にのぼったこともとても楽しかったこと、体験して見えてくるもの、自分の肌感覚みたいなものを思いっきり感じられるツアーでした」、「初めてのカンジキでみんなで歩いたことなど、大人になってもいろいろ初めての体験ができるんだぁ、冬だったし、たったの1泊のことでしたがまるで子供の頃の夏休みの時に感じたような充実感を感じました」など励みになる言葉もいただきました。 今回のイベントツアーは、夏の妻有は知っていても雪国体験の少ない私達にとってはまたとない機会でした。個性豊かな3組の親子の関係性の近くて遠い、言葉にならないつながりを想起させる展示空間の中で、ワークショップまでしてしまうという試みも他ではなかなかありませんでした。今回のイベントを通して誰もが表現者だという忘れがちなことを思い出したり、自分と自分の親との関係性に重ねてみたり、五感全てに効くイベントだったと思います。本展示は4月19日(日)まで。夏の【限界芸術一〇〇選#3】イベントにも乞うご期待です。

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