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アートと共に滞在する。三省ハウスで過ごすひととき

木の机が等間隔に並べられた教室、ワックスでピカピカに光る廊下。小学校の校舎というのは、いつでも私たちを子どもの頃に戻ったような気持ちにさせてくれます。大地の芸術祭では、使われなくなった小学校を舞台に、さまざまな作品が展開されています。たとえば、展示施設の「磯辺行久記念 越後妻有清津倉庫美術館[SoKo]」やパフォーミングアーツ×レジデンスの「越後妻有『上郷クローブ座』」。校舎をリノベーションしたアートスポットは、芸術祭ファンに根強い人気です。今回はそのうちの一つ「三省ハウス」を訪れました。

テキスト・編集:西川まゆ(アソビュー) 撮影:北村渉

24 September 2019

三省ハウスってどんなところ?

木造校舎をリノベーションした宿。窓辺には季節の草花が

食堂の椅子も当時の校舎で使われていたもの

「三省ハウス」は、1955年に建てられた木造校舎をリノベーションした宿泊施設です。
50年あまり経った今もなお、大地の芸術祭の拠点として利用されています。中には世界的に著名なアーティスト、レアンドロ・エルリッヒの作品も展示されており、滞在中も大地の芸術祭の世界をたっぷり楽しめます。

※基本は10名様以上の団体のみの受付ですが、四季プログラムやトリエンナーレ中は個人受付をする場合もございます。詳細は公式HPをご確認ください。

どこか懐かしい校舎。子どもの頃の記憶を思い出します

昇降口には「三省ハウス」の看板が

地元の人がつくった工芸品も

「三省ハウス」があるのは、越後妻有の南側にある松之山エリア。一見普通の小学校に見えますが、中は新しく改装され、センスの良い空間になっています。当時の校舎を活かした木造の廊下がどこか懐かしく、芸術祭の資料やワークショップで作られた品が並ぶ様子は、ちょっとしたギャラリーのよう。

寝室のプレートも可愛らしい

1階はラウンジや食堂などの共有スペースで、2階が寝室になっています

寝室は男女別のドミトリータイプ。各部屋には「かたくり」や「山ざくら」といった、里山の植物にちなんだ名前がつけられています。窓からは松之山の緑が見えて、とても居心地が良さそう。

体育館やグラウンドも、滞在中は自由に利用可能。バトミントンやボールなど、小学校時代に遊んだ記憶が蘇ります。

地元のお母さんたちの、あたたかい家庭料理

写真はイメージです。メニューは季節によって変更されます。(撮影:Ayumi Yanagi)

林間学校での一コマ。三省ハウスの食事に子どもたちも大満足

三省ハウスでの楽しみといえば、やっぱり食事。食堂では地元のお母さんたちが腕をふるう、松之山の家庭料理が味わえます。季節の食材をふんだんに使った献立は、その日ごとに異なり、寒い時期に仕込む味噌や、松之山でよく食べられるしょうゆの実など、調味料にもこだわりがつまっています。その日に収穫された野菜を見て、メニューを考えるのだそうです。

夕方になると食堂から良い香りが漂ってきます

食事の時間になると、お母さんたちが笑顔で配膳してくれました。この日の献立は、山菜の天ぷらや妻有ポークのしゃぶしゃぶ、山菜のおひたしなど。ふっくらツヤツヤのご飯は魚沼産コシヒカリです。

食堂に勤めている、相沢トシコさん

この食堂で長く勤めているという、相沢俊子さんともお話をしました。三省ハウスに携わるようになったきっかけをお聞きすると、「以前は違う学校の食堂で働いていたのですが、そのご縁で、やってみない?と知り合いからお声がけがあって。最初は、いったい何がはじまるんだろう…という印象でしたけどね。トリエンナーレの50日間だけの予定が、その後も続けることになって、いまではなくてはならない、楽しみのひとつなんです」と朗らかな笑顔で語ってくれました。

梅干しや佃煮も手作り。お母さんたちのこだわりのお味です

食堂の外にはテラスが。朝はここでコーヒータイムもおすすめ

撮影:野口浩史

きゅうりを食べて、「美味しいですね」と伝えると、「今日のきゅうりのたまり漬けは、酢・砂糖・醤油・鷹の爪・ショウガをボウルにいれて和えたもの。こっくりした味付けがご飯がすすむの。白米にはしょうゆの実もすごく合うからぜひ食べてみて」とひと言。お話しているとなんだか暖かな気持ちになってきます。

調理のこだわりに関しては「春に採れた山菜は、冬まで食べられるように調理するんです。新潟の中でも特に雪深い松之山は、冬になれば部屋の窓も雪で埋まってしまうほど。冬の時期は野菜を収穫できないから、長く食べられるようにするのが、昔ながらの知恵なの」とお話してくれました。

「いつ来ても、自分の家に帰ってきたような、おばあちゃんの家に来たみたいな気分になってほしい。第二のふるさとと思ってもらいたい。みなさんと会うのが楽しみなんですよ」

「三省ハウス」のご飯の美味しさは、こんな作り手のみなさんの思いがあってこそなのかもしれません。

レアンドロ・エルリッヒの作品も。談話室でくつろぎのひととき

食堂の隣にあるのは談話室。やわらかな照明の中、くつろぎの空間がひろがります。

実際に使われている「雪囲い」と呼ばれる雪から窓を守る板や、地域に生えている針葉樹や植物(撮影:Keizo-Kioku)

ここには、レアンドロ・エルリッヒの作品「Lost Winter」が展示されています。窓ガラスを覗くと、そこには窓ガラスをのぞく自分の姿と、雪どけがはじまった頃の越後妻有が。

これは覗く者の姿が不自然な場所に現れる、レアンドロの過去作品「Lost Garden」をベースにして生まれたもの。宿泊者だけの鑑賞プログラムも用意されています。プログラムが始まると、作品の中で止まっていた時間が動き出し、夕暮れから夜の風景に変わり、風が吹いたりフクロウの声が聞こえたり、ゆったりとしたひとときが過ごせます。

アートに自然に温泉に。辺りを散策するならここがオススメ。

「三省ハウス」があるのは、松之山エリア。日本の原風景ともいえるような山や畑、四季折々の風景が楽しめる場所です。

ブラックシンボル

近づいてみると、とても大きい。松之山のシンボルとなることを願ってつくられた作品

温泉街や不動滝を散策しながら…

松之山の温泉街を抜けた不動滝のそばにある、大きな黒い雄牛のモニュメント。これは、スペインの有名なシェリー酒のブランド「オズボーン・グループ」のシンボルマークをモチーフにしたサンティアゴ・シエラの作品「ブラックシンボル」。松之山の美しく力強い自然が、スペインを象徴するシンボルと融合し、新しい世界を産み出すことを願って作られたそう。

美人林

まっすぐに並ぶブナが美しい、その名の通り、美人林

四季折々違った景観が楽しめます

車で10分ほどの場所にあるのが「美人林」と呼ばれるブナ林。まっすぐなブナの立ち姿が美しいことから、その名がつけられました。林の中は夏でも涼しく、散策にもぴったり。周辺には野菜の直売所もあるので、散策を楽しんでみては。

ナステビュウ

湯にはいった瞬間に実感する、泉質の良さ。ぜひ訪れてほしい、松之山温泉

日本三大薬湯の一つとしても知られる松之山温泉。その源泉を薄めることなく使った、効能豊かな湯が楽しめる日帰り温泉です。「三省ハウス」からは車で約15分ほどの場所にあるので、滞在中にに利用するのも便利。眺望抜群の露天風呂、ロウリュウも楽しめるフィンランド式サウナ、地下水を使った水風呂など、温泉好きな人も満足する充実度です。

今回は「三省ハウス」をご紹介しました。いつ訪れても私たちをあたたかく迎えてくれる、第二のふるさとのような特別な場所。ぜひ、訪れてみてください。

スポット詳細

三省ハウス

住所:〒942-1402 新潟県十日町市松之山小谷327
電話番号:025-596-3854
公式HP:http://www.sanshohouse.jp/index.html

※現在は10名以上から予約が可能。時期によって変わるので公式HPを確認してください
※三省ハウスに宿泊するプログラム

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