舞台作品『バナナ裁判』は、今回で三回目を迎えるJIJOとsukimaki animationのコラボレーション作品です。人形劇とアニメーションという異なる創造畑で種を蒔き作品を育んできた二人の興味は、根っこの部分で菌糸類のように繋がっているような気が致します。それは二人が女性であるという単なるジェンダーの枠組みを悠々と越えて、人が持つ自己矛盾、自然や動物との果てしない距離感、などの探求にあるのではないでしょうか。 さて本作『バナナ裁判』では、動物たちが人間の暮らしをしている、そんな民譚のようなお噺が語られます。劇中において動物たちは二本の足で歩いたり遊びに興じたりなどしますが、決して「ことば」は持ちません。これは普段、私たちが見聞きする昔話やファンタジーとは少し異なります。本作のテーマは、人と動物が暗黙の了解で共通言語を有する-共に苦難を乗り越えたり、互いに友情を築く-ような万能な世界ではなく、人と動物の間に横たわる溝やずれを観察することにあります。それぞれが持つ日々の些細な違和感、抜け落ちてしまった風習の起源、などを考察することで未だ知ることのない生きる智慧と愉しみを見出す心見であります。 また本作の重要な要素のひとつとして、「獣人」と呼ばれる人と動物の合いの子が登場します。「獣人」は人と動物の境界を取り持つトリックスターとしての役割を果たす一方で、自らの存在意義やジレンマに苛まれています。「獣人」のイデアはJIJOが人形劇と並行して行ってきた「かぶりもの」のパフォーマンスから着想を得た訳でありますが、彼らの抱える定めこそ、人々が見捨ておけぬ他者の苦痛へのまなざしではありますまいか。 最後に。是非善悪と無縁に生きる鳥獣の世界は、人が宗教を持つ以前の原始的な世界に似ているように思います。宗教は政治や法律といった生活を支える規範に密接に関与しますが、時として人を憎しみ合わせ、お互いを遠ざける道具としても機能してしまいます。宗教が悪いとか要らぬと言っているのではありません。『バナナ裁判』でも人と動物と獣人、三者が立ち回り境界が融解すると、不必要な澱のようなものも生まれてしまいます。しかし畏れず、それぞれの営みにおける可笑しみをそれぞれに見出すことができれば、未知なるものへ接近することで生まれる想像の余白のようなものが、自己の仕合わせにも繋がるのだと思うのです。
松村康平
北海道生まれ。ある日出会った人形劇に衝撃を受け、自分も人形劇の道に。「JIJO」を旗揚げし、現在は京都を拠点に人形劇やカブリモノの作品を児童館や保育園、各地のフェスティバル等で上演している。http://ayajijo.com/ 関西の糸操り人形集団「ITOプロジェクト」のメンバーでもある。
大学在学中よりアニメーション制作を開始。松村康平とのコラボレーションによる作品が、国内外の映画祭で上映されている。『WHILE THE CROW WEEPS – カラスの涙 – 』で文化庁メディア芸術祭新人賞受賞。現在最新作『深海の虹』を制作中。また 2012 年より 人形劇団 JIJO との共同制作「マリオメーション」を始動。
http://www.sukimaki.com/
映画作家。2000年代初期より京都を拠点に映画、写真作品の制作を開始。自作以外にも様々なアートシーンに於ける映像制作を手がける。10’年代の主な活動として、アニメーション作品《カラスの涙》(2013,鋤柄真希子との共作)が文化庁メディア芸術祭新人賞を受賞、映画《Scene Missing》(2014)がカンヌAVIFFにて上映、また様々なジャンルの作家によって混成されたバンド「山/完全版」のメンバーとしてライブパフォーマンスに参加。2015年より、人形劇とアニメーションによる舞台作品、動物民譚《バナナ裁判》の脚本を手がけ各地で上演を行っている。
http://www.matsumurakohei.com/
日時 |
2019年8月15日(木)14:00〜15:00 2019年8月16日(金)14:00〜15:00 人形劇とアニメーションを使ったワークショップ:16日(金)15:30~16:30 |
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場所 |
越後妻有「上郷クローブ座」(津南町上郷宮野原7-3) |
料金 | 一般1,000円、小中学生500円 ※越後妻有2019夏共通チケット提示で500円引き ※ワークショップ:公演参加で無料 |
備考 |
10歳以上推奨 |