新潟から世界を捉え、21世紀の美術を考える
大地の芸術祭公式WEBマガジン

物語 / 私と「大地の芸術祭」第2回(後編)

「うぶすなの家」の山の幸は、料理、焼き物、そして人柄

「うぶすなの家」スタッフ 小宮山マツノ

「うぶすなの家」スタッフ

小宮山マツノさん

地元住民として越後妻有の古民家レストラン「うぶすなの家」のスタッフを務める小宮山マツノさん。前編では、「大地の芸術祭」と「中越地震」をきっかけにこの家に関わり始めたお話を聞くことができました。後編では、大好きな料理のことや普段の暮らし、そしてこの芸術祭の総合ディレクター・北川フラムとの意外な交流などを語っていただきます。

テキスト:中島晴矢 撮影:豊島望 編集:内田伸一、宮原朋之(CINRA.NET編集部)

28 December 2019

あてにされたら、がんばれる

ここ十日町市の東下組(ひがししもぐみ)は、棚田や畑に囲まれた山間部に拡がる集落群で、日本有数の豪雪地帯でもあります。マツノさんは、普段この地域でどんな生活を送っているのでしょうか。

倅(せがれ)が畑をして、私と旦那はナスやネギ、米といった「多角経営」。そこで出来た作物を出荷して、生活の糧にしています。「うぶすなの家」が開いている時期は、ここの仕事と、その後に「グループホーム」という施設で5人の方のお世話をします。ウチに帰ると自分を入れて6人家族です。常に5〜6人の人たちと会っているから、さびしくありません。根はさみしがり屋なんでしょうけど、皆さんのおかげで明るく生かさせてもらっています。

「うぶすなの家」の前で、仲間たちと。(撮影:大地の芸術祭)

「うぶすなの家」での仕事は決まったメンバーの間で相談しながら、お客さんの来訪予定やその人数によってシフトを組んでいるそうです。

「明日は3人でいいでしょ」とか「2人でがんばりなさい」とか、余計な人件費を使わないようにね(笑)。まとめ役の水落静子さんが、いつも私たちのことを頼りにしてくれる。これがまたいいですよねぇ。「ああ、静子がアテにしてくれてる。もっと頑張らなくちゃ」って思うんですよ。

その日のメニューは、朝に採れた作物や山菜によっても臨機応変に決めていくそうです。もちろん小宮山さんたちの畑で採れた野菜も、御膳に並びます。山の幸がふんだんに詰まった料理は、素朴ながら繊細で豊かな美味しさにあふれています。マツノさんは昔から料理が大得意だそうで、賞を取ったこともあるとか。

料理は小さい時から大好きでした。お嫁に来てから、農協主催のお弁当コンテストで最優秀賞をもらったこともありますよ。この地域の冬の風物詩、漬け菜をご飯に混ぜて、らっきょうをシソの葉で紅に染め、山菜を散りばめたら出来上がり。タイトルは「嬉し恥ずかし山地(やまち)弁当」。乙女でしょう?(笑) これが得意料理と言うのは特別ないけれど、いつでも家族が満足できるような食卓づくりをしてきました。

旬の山の幸や「妻有ポーク」など、地域自慢の食材を生かした「うぶすなの家」のメニュー。

そんなマツノさんたちの料理や人柄に魅了され、「うぶすなの家」のファンとなって、千葉や大阪など全国から、繰り返し訪ねてくれるお客さんも多いと言います。

そういう人には電話番号を教えてもらって、私から電話をかけることもあります。まるでお友達ですね。また以前、近くの小出文化会館に『NHKのど自慢』が来た時に旦那と二人で出たら、私の顔を見たことがある人から「TVに出てたね!」って連絡が来て。何だかいい気分になったっけなぁ(笑)。「前に行った時に食べたあの食材、マツノさん家にない?」なんて電話をもらうこともあります。そうやってアテにしてもらうとまた嬉しくて、すぐその野菜を送ってあげるんですよ。

この「家」に集う人たちと共に

地域に芽吹き、地域を越えたつながりが生まれる「うぶすなの家」。ちょうど他のお客さんが帰るところで、マツノさんたちによるお見送りを見せてもらうことができました。地場産業だった着物や、雪、コシヒカリといった地元の名物が歌詞に盛り込まれた“十日町小唄”。その歌と踊りによるお見送りは、海外からのお客さんにも人気が高いそうです。

人懐っこい笑顔で、誰とでも陽気に接するマツノさん。この芸術祭の総合ディレクター・北川フラムともフレンドリー(?)なやりとりを交わしてきたようです。

総合ディレクターの北川フラム(写真左上)もしばしば訪れる。(撮影:大地の芸術祭)

初めて北川先生とお会いした時、お腹がちょっと出てたから「なんだこれ〜」と触ったら、「触るな」って(笑)。不機嫌になってるのも知らずに、着ている派手な縞シャツを指して「カラーテレビ用にこういう色の服を着てるの?」って聞いたら、「これしかないんだよ」だって。私も最初は、「あんなムッとした人はいねぇなぁ」と思ってました。でもそのうち、ここに来てご飯を食べ終わると、最後に厨房をのぞいて「頑張ってね」なんて声をかけてくれるようになったんです。それを見て「この家によっぽど力を入れてるんだなぁ。こりゃ潰しちゃいけないな」と思いましたよ。ふっふっふ(笑)。

寡黙なイメージのある北川ディレクターと、人を和ませるマツノさんは好対照(?)ですが、その相性は意外にも抜群なのかもしれません。

最後に、マツノさんは「うぶすなの家」へのちょっと真面目な想いを、いつもの笑顔で語ってくれました。

この地域にいながらにして雇用の場ができて、旅から来る人にもお会いができて、友達ができて、うちで作った野菜も使わせてもらって。これ以上のことはないと思います。だから、これからも楽しく、一生懸命にこの家を盛り立てていきたいですね。

Q1. 思い入れのある作品は?

草間彌生「花咲ける妻有」2003年

「うぶすなの家」もひとつの「作品」だと思うけれど、これ以外でこの芸術祭のことを人に紹介する時は、何と言ってもこの彫刻です。第一印象は、「変わったおばあちゃんの大きな毒キノコ」(笑)。怒られちゃいますかね……。でも、この作品はみんなが知ってくれているし、私も一目見たときから忘れられないくらい強烈ですね。

撮影:中村脩

Q2.あなたにとって「大地の芸術祭」とは?

人と出会える「心の財産」

物語

記事一覧

編集
ART FRONT GALLERY
アソビュー!
CINRA
つながる

最新ニュースやイベント情報、越後妻有の四季の様子、公式メディア「美術は大地から」の更新情報などを大地の芸術祭公式SNSアカウントで発信しています。