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自然と人との関わり合いを考える――フラム塾現地活動レポート

19 November 2020

大地の芸術祭の総合ディレクター・北川フラムによる、座学と月2回の現地活動を通して地域芸術祭のつくられ方を学ぶ「フラム塾」。草刈り、稲刈り、作品メンテナンスなど、年間を通じて越後妻有に足をはこび、地域との協働をとおして芸術祭の背景にある地域の営みを学んでいます。10月20日、まつだい「農舞台」を拠点に第7回目の現地活動が行われました。

里山をみる2つのまなざし

今回の現地活動のテーマは、まつだい農舞台の城山をフィールドに季節ごとの植生や生き物を観察する「モリアオガエルクラブ」と、実際に手を入れながら自然との付き合いを学ぶ「環境育成ワークショップ」。

モリアオガエルクラブでは、地元の野の師父・松山金一さんと城山を散策。里山に咲く植物や昆虫や鳥を観察することで里山の生態系を深く掘り下げ、自然と向き合う生活の一端を覗きます。

環境育成ワークショップでは、各地でランドスケープデザインを手掛ける高野ランドスケープの高野文彰さんの指導のもと、松代城山を景観としての広い視点で捉え、整備作業を通して自然と人との関わり合いを学びます。生態系と景観。2つの視点から里山の価値を見つめ直す、丸1日のプログラムです。

自然との対話のなかで

冒頭では、松代城山の象徴的な作品、イリヤ&エミリア・カバコフの「棚田」を観察。ここに立つと、まず「棚田に森が攻めてきている」と表現した高野さん。

自然はそのままにしておけば良いということではなく、ただ「守る」ことだけでもない。日々変化していく自然環境との対話のなかで、手を加えていくことも必要なんです。そして、まずは今の里山がどのように形作られているのかを学ぶために、生き物や植物、木々などの観察が重要になってきます。

北川フラムからは、この棚田と作品が重なった風景が誕生するきっかけとなった話が。

20年以上前、カバコフさんに妻有を案内していた時のことです。視察を終え帰りの電車をまつだい駅で待っていたところ、駅から見えるこの棚田の景色を見ていたカバコフさんが、ふと何かを思いついたかのようにスケッチを始められました。棚田で作業をする農家の方々を模した彫刻と、それに重なるように言葉を配置したフレーム。土砂崩れで出来た地形に棚田を作り生きてきた妻有の土地と、カバコフさんが夢想してきた作品のイメージが重なったのです。

この土地が持つエネルギーから着想を得て制作をするアーティストと、この土地での生活を守り続ける地域の人。今目の前にある景観は、そのような互いへの敬意から成り立っているということに気付かされます。改めてワークショップの目的を確認したところで、里山に入っていきます。

農舞台を出発し、城山の中へ。
ヤマユリ畑を通り抜け、金一さんに植物や樹木の様子を紹介をいただきながら林の奥に進んでいきます。辿り着いたのは2007年からフィールドミュージアムの拠点として整備され、数々のワークショップを実施している開けたスペース。

ここは、かつて渋海川沿いの棚田で収穫した稲のはざ場として使われていた場所。横一線にきれいに並ぶ唐松は、収穫した稲穂を干して乾燥させるためのはざ木として利用をされていた跡だそう。

脱穀までの過程も変化してはざ場として使うこともなくなり、この里山に人が入ることは少なくなりましたが、地域の住民や学校と協力をすることで、「カタクリの群生地」として大地に新たな生命が吹き込まれています。人の手が入ることによる環境の変化を、確かめ、対話をしながらまた手を加える。その循環が確かに生まれている様子を、写真での解説も交えながら観察しました。

人間が森林を伐採することはネガティブに捉えられることもあるけれど、環境と関わり合っているということは、決して悪いことではありません。木を切ることによって、そこに新しい草や植物が生えることもしばしば。人間の生活環境の変化は10年スパンかもしれないが、自然との関わりは100年や1000年後を考えることが大切になってきます。(高野さん)

植物も人間も、変化する環境の中で心地よく生きていくために作用し合うということなんだよね。(フラムさん)

そんな講師の2人の掛け合いに耳を傾けながら足元に視点を移すと、小さなリンドウが。

リンドウ

人の営みが支える景観

一度山を下り、農舞台でランチタイム。その場で講師の高野さんによる即興のプレゼンテーションがありました。越後妻有だけにととまらず、拠点である北海道での取り組みや世界中のパートナーと連携したプロジェクトの展開など、スケールの大きな話に参加者も聞き入っていました。

午後は松代城まで上がり、森林の環境育成ワークショップが行われました。車1台がやっと通れるほどの急な坂道を抜けて松代城まで上がると、松代の町並みと魚沼連峰が一望!

「視点をかえて町やその先の山々を眺めると、土砂崩れの跡が棚田になっていることがよくわかる。山を越えてここに人が行き交ってきた壮大さ、たくましい生活の営みを感じられる。」と語るフラムさん。その言葉からは、この地で厳しい環境と向き合いながらも、強く、しなやかに暮らしてきた人々への深い尊敬の念が感じられました。

人の手が加わる里山デザインとは

いよいよ松代城周辺の環境整備。
森林整備とひとことに言っても、目的に応じて様々な作業があります。今回の参加者の半数以上は、はじめての本格的な伐採作業。小ノコ、鎌、ビーバーなどの機材を手に、各々が担当するエリアと役割を決め、まずは道具の使い方を教わるところから。一つひとつの木を残す意図、伐採する必要性を確認しながら黙々と作業を進めます。

人が景観のなかに建造物や植栽など加えることを「プラスのデザイン」とするならば、草刈りや伐採は「マイナスのデザイン」と表現されるそう。フィールドを整え、木々や草花を際立たせること、「鳥の目」で全体の景観を整えていくことが重要なのだと高野さんは語ります。

そして、一つひとつの伐採作業を積み重ねた結果、一面見違えるような景観に!

Before

After

多様な参加者とひとつのチームに

最後は、参加者同士の対話時間。ワークショップを通しての気付きや感想、フラム塾を通して学びたいことなどを、参加者全員が一言ずつ共有します。

中国・重慶から留学し大学院で社会科学を専攻する参加者の方は、「母国では、環境を破壊しているわけではなくても、森林整備など”景観を美しくする”という意識は薄いと感じていました。人が景観を美しくすることは人と環境の関わり合いをそのもの表している。今日のワークショップを通じて、人間と環境の関係性が希薄になっている今だからこそ大切なことを学びました。」と感想を述べました。

2015年にこへび隊として参加した方も、「以前も農舞台周辺の草刈りに参加をしたが、今回の活動では地元の知恵を話してくれる人がいることによって、さらに地域のことを深く感じとることができた。この地の物語を語る存在の大切さを感じた。」と。

参加者のなかには中越地震を機に故郷の復興に関わっている方や、松代城建設時の行政担当者も。当時の大変なエピソードを交えながら、「城山が蘇ることを期待している!」と、未来への期待をこめたメッセージもありました。

 最後には運営スタッフ、高野ランドスケープの皆さまからも感想をいただきます。

「アートがただ里山に置かれているのが芸術祭じゃない。」
「アートが置かれている環境を見つめることによって、森林や里山を守ることに繋がっていく。人と自然のバランスを保っていくための、アート作品であってほしい。そして、ここに関わるアーティストにとっても、環境がどのように変わっていくのかを感じてもらえる場になってほしい。」

参加者に向けては、「作業を通じて、この地域をどうしていきたいか、継続的にこの空間どう関わっていきたいかを考えるきっかけになってほしい。」とお話しいただきました。

最後には高野さんより、「アートも自然に触発されて変わっていき、またそれに環境が貢献する。何を残して何をなくすのか、形や場所を変えても生かすべきものを選択することが求められているんです。継続して環境に関わることで、環境の変化にも気付けるようになっていく。こへび隊や地域の方と一緒に、そんなチームを作っていきたいんです。」と力強い言葉。

そして、コロナ禍で現地活動やワークショップの実施がなかなか叶わなかった状況を乗り越え、今回の場が実現したことへの感謝の気持ちを共有し、プログラムは終了となりました。

学びの場として。フラム塾のこれから

ワークショップを通じて得たものは異なりますが、一人ひとりにとって学びのある時間になったことが感じられました。

自然環境と人間の関係を考えるという、芸術祭の理念を象徴するような今回の活動は、自然と人の関係性だけでなく、そこに暮らす地域の方、参加者、アーティストなど多様な人々が交差する学び合いの場になりました。そしてアートが触媒となってその対話を促進することができる。そのきっかけが見えたような気がします。

これから先、この景観に新たに生まれるアート作品を通じてどのように環境変化をするのか、地域の方々と一緒に見守っていけることが楽しみでなりません。

こへび隊のみならず、アーティストや地域にとっても学びのフィールドとして根付くことを目指して、フラム塾はこれからも活動して行きます。

十日町市役所 観光交流課 芸術祭企画係
/地域おこし協力隊
佐藤あゆ

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