運営 / 越後妻有の舞台裏から
02 October 2025
「越後妻有里山現代美術館 MonET」と「越後妻有交流館 明石の湯」は、原広司建築による大地の芸術祭拠点施設で、建物として一体になっている。施設では、常設作品およそ15点の公開、季節ごとの企画展覧会の開催、ミュージアムショップ、カフェ、温泉の運営を行なっている。
一日のはじまりは、館内の清掃である。清掃業者さんも含めて、朝は皆で清掃をして、館内の環境整備に務めている。美術館が10~17時、温泉が11~21時と夜まで営業するため、早番・遅番の2交代制だ。私は館全体の管理運営担当スタッフとして勤務し、今日は遅番のシフトに入っている。
そろそろ、フロントの昼交代の時間だ。早番のスタッフに代わり「いらっしゃいませ」とお客様を出迎える。さあ、スタートラインに立とう。
位置について よーいドン!
事務所の中央制御盤から、温泉の警報ブザーが鳴っている。確認すると表示は「ろ過制御盤異常」。設定温度より少しでも湯温が高くなると発報する。すぐに機械室に行って調整をしなければ。
最適温度になり事務所に戻ると、不協和音のような内線着信。脱衣室のお客様より緊急連絡だ。「はい、事務室です」緊張が走る。お客様「ティッシュがなくなっているよ」。ほっと胸をなでおろす。教えてくださりありがとうございます。
しばらくして、フロントからチーンとベルの音、お客様がお呼びだ。フロントスタッフ「雪下にんじんソフトの注文が入りました」地元食材を活かそうと社内で企画開発した、オリジナルフレーバーで、雪の下で甘味が凝縮された雪下にんじんを使用した、きれいなオレンジ色のソフトクリーム。お客様が写メを撮影して喜ばれているのを見ると、とても嬉しい。
フロント周辺のエントランスホールには、ミニグロッケンの可愛らしい音色が響く。あ、また「ドレミの歌」だ。ここでは原倫太郎+原遊さんの作品「The Long and Winding River (tunnel and table)」が展開され、テーブルゲームや卓球、ミニ楽器などのあそびを楽しめる。週末は家族連れのお客様でにぎわう。お客様の奏でるメロディーは、きらきら星やジブリなどさまざまだが、「ドレミの歌」の頻度は尋常ではない。これは何か研究に値するかもしれないと考えながら耳を傾ける。
温泉エントランス Photo by Kanemoto Rintaro
カフェのピークタイムが落ち着いたので、デスクについて、事務作業にとりかかる。売上データの入力やメールの返信などをしていく。数日後、北川フラムディレクターと次の企画展覧会についてオンラインミーティングがあるので、どうしても今日中に、資料を仕上げなければならない。目指す最終ゴールはこれなのだ。
冬の展覧会制作の様子。作家とこへび隊や地元の方々と一緒につくりあげていく。
すると今度は外線電話の着信。お客様「芸術祭を回りたいのですが、チケットはどこで買えますか?」「チケットは各施設で販売しております。3か所以上いかれる場合は、個別鑑賞券よりも共通チケットがお安くなるので、おすすめですよ。」
また事務作業に戻って集中していると、パソコンの画面右端に、LINEのポップアップが出る。美術館スタッフのグループLINEだ。「作品が一部動きません」とにかく確認に向かう。するとこのパターンには見覚えがあった。機材の一部、パワーサプライの消耗による不具合だ。交換が必要となる。電気屋さんに電話、っと今日は日曜日で休業だ。ひとまず公開休止にするしかない。各所へ連絡、、、。
平日は、地元業者さんの出入りも多い。空調設備業者のNさん「修理の見積を持ってきました」(思ったより費用がかかるな・・・。)次は施工業者のIさん「来週からの屋根防水工事について話に来ました」続いて、水回り業者のMさん「藻止め剤の納品に来ました」(美術館の中央の池の整備に使う薬剤、待っていました。)
池の真上は吹き抜けで、空が見える。それはまるで建物で四角く切り取られたキャンバスのようで、雲のかたちや空の色が移りかわっていく。特に夕方の空は格別で、毎日の楽しみでもある。最近は、秋の虫やカエルの声も加わって癒されている。
そういえば、明日の天気はどうだろう。予報は雨。美術館周辺の屋外作品「モグラTV」の畑、明日の水やりは必要なさそうだ。毎年、作物の種類は作家の開発好明さんと相談して決めていて、ご近所のTさんに見守っていただきながら、美術館スタッフで野菜を育てている。今年育てたバジルとパプリカは、明石の湯のカフェでガパオライスに彩りを添えている。
閉館10分前。閉店の音楽「蛍の光」を流す時間だ。お客様を見送って、閉館作業に入る。〆切の資料も無事、完成した。「今日もおつかれさまでした」スタッフと声をかけあい、一日が終わる。
なんとか、ゴール!!
越後妻有里山現代美術館MonETには、大地の芸術祭の玄関口として、多くの人が訪れる。越後妻有という場所がさまざまな人を呼んできて、ここにいながらにして、たくさんの出会いがあることは、大変な魅力だと常々思う。これからも、訪れる人にとって、楽しい拠り所であり続けられるよう、みんなで守っていきたい。
帰宅後、ふうと一息ついて、夜23時すぎ。電話の着信音が。スマホ画面には「ホームセキュリティ会社」と出ている。はて、何事だろうか。話を聞くと、撤収し忘れたのぼり旗が風ではためいて、センサーが異常を感知してしまったとのこと。「申し訳ありません!以後気をつけます。」
NPO法人越後妻有里山協働機構スタッフ
芝山祐美
最新ニュースやイベント情報、越後妻有の四季の様子、公式メディア「美術は大地から」の更新情報などを大地の芸術祭公式SNSアカウントで発信しています。