運営 / 越後妻有の舞台裏から
06 October 2025
十日町市松代エリアにある「まつだい『農舞台』」は、代表作の「棚田」(作家:イリヤ&エミリア・カバコフ)をはじめとした複数の作品をもつ大地の芸術祭の拠点施設のひとつです。名前の通り「農業」の舞台なので、地域住民の農業とともにある生活様式や息遣いも作品と一緒に感じていただける唯一無二の施設だと感じています。
この「まつだい『農舞台』」から山頂の「松代城」までの約2kmの里山に約40点もの作品が点在しており、このエリア全体を ”まつだい「農舞台」フィールドミュージアム” と呼んでいます。
MVRDV「まつだい『農舞台』」/草間彌生「花咲ける妻有」Photo Nakamura Osamu
そして、何と言ってもこの地域の景色は心を浄化してくれます。春は雪解けとともにカエルが鳴き始め田植えが始まり、夏は青々とした草木が生茂り青空とのコントラストがとても綺麗です。秋は黄金色の穂が絨毯のように棚田に敷かれ、稲刈りが始まり、紅葉がそのあとを追って来ます。冬は辺り一面が白銀の世界に包まれ、静寂が訪れます。
春(イリヤ&エミリア・カバコフ「棚田」)
夏(イリヤ&エミリア・カバコフ「棚田」)
秋の夕暮れ(イリヤ&エミリア・カバコフ「棚田」)
冬(イリヤ&エミリア・カバコフ「棚田」)
そんな、四季折々でいろんな表情を見せてくれる里山を施設とともに管理できることはとても楽しく、心が穏やかになります。自然の中の作品なので道の整備や草刈り、作品清掃は頻繁に行わなければならないし、蜂や熊などへの対策など、維持管理はとても難しいと感じますが、それ以上に自然の力に癒されます。
メンテナンス風景
運営業務では日々の施設運営・管理の他にお客様がフィールドミュージアムを安全に楽しく巡れるよう考え試行錯誤してみたり、ここならではの体験ができるイベントを実施します。世界各国から訪れるお客様にもこの景色と思い出を楽しんでいただけるよう、写真を撮ってあげたり積極的にご案内します。この地域の方々は農業や豪雪をみんなで協力して乗り越える為、お客様へのサービスもそれに値しているように感じます。誰にでもフレンドリーにお声がけし、できる限りのサービスをする。海外の方にもジェスチャーや単語で同じように接していました。言語が通じなくとも人の暖かさは通じるのだなとここで働いて感じました。私も日々その姿から学ぶように心がけています。
Photo Nakamura Osamu
大地の芸術祭が取り組むプロジェクトのひとつに「まつだい棚田バンク」があります。
松代(まつだい)は「星峠の棚田」をはじめとした日本有数の棚田が広がっている地域です。私も初めて星峠の棚田を見た時はその壮大な景色にはもちろん、鳥の囀りや風が吹き抜ける音、深呼吸を何度もしてしまうほど綺麗な空気に感動したのを今でも思い出します。
そんな美しい棚田も、人の手が入らないと一気に荒れ果ててしまうことを知りました。
星峠の棚田(春)
星峠の棚田(冬)
担い手がいなくなってしまった田んぼをできるだけ多く引き受け耕作しながら、芸術祭が培ったネットワークを活かし、棚田バンク会員や地元住民、アーティスト、企業や学生など多種多様な人々とともに都市と地域の交流を広げる活動を行っています。地域の高齢化により年々耕作放棄地が増えている現状ですが、この活動を通して農業に興味を持ってくれる方々が少しでも増えるよう、今後もこの地域が持つ特色とコミュニティを最大限に活かして発信していきたいと思います。
まつだい棚田バンクでは、年に3回(田植え、草刈り、稲刈り)農作業イベントを開催しています。全国各地にいる会員さんと地元住民が一同に集まり、農作業を通して交流を深めます。棚田バンク会員さんは農業がしたい方だけでなく、芸術祭で活動を知り共感してくださった方、FC越後妻有を応援したい方など入会のきっかけはさまざまです。きっかけは違えど、農業を通じて越後妻有に定期的に通いたい方々が参加してくださいます。私も会員の皆さんと近況報告や今後の展望など、いろいろな話をしながら農作業をするのがとても楽しいです。
稲刈りイベント(Photo Kanemoto Rintaro)
稲刈りイベント
みんなで一緒に汗をかき、泥まみれになりながら作業すること、農業が大変であり楽しくもあるということ、自分たちで作ったお米は格別においしいということを体験できる場を提供するのはとてもやりがいがあり、私自身もこの活動で人の繋がりの素晴らしさを学びました。
田植えイベント
稲刈りイベント(Photo Yoneyama Noriko)
黄金色の穂を収穫し終えた後は出荷作業が待ち構えています。まだまだ繁忙期は終わりません。棚田バンク会員さんへのお米や店舗・オンライン販売分もほとんど手作業で詰めます。
個数は優に2000個を越えます。手先の作業だけでなく、精米するために30㎏の米袋を何往復も運んだりする力仕事もあります。最初の頃は腕と指先が毎日筋肉痛でやっぱり農業は大変なんだなと身をもって感じました。
米詰め作業
ひたすらにお米を詰めて結んで箱に入れての地道な作業ですが、棚田バンクイベントでお会いしたオーナーさんが喜ぶ顔を思い浮い浮かべながら作業するとより丁寧に、心を込めて一つひとつ詰めることができ、終わる頃にはとても気持ちの良い達成感があります。
そして、実際に食べたお客様から「おいしい」の一言がもらえれば頑張って作ってよかった。また来年もおいしいお米を食べてもらえるよう頑張ろうと思えるのです。
NPO法人越後妻有里山協働機構
山下由衣