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芸術 / アントニー・ゴームリー

FILL

芸術 / アントニー・ゴームリー

FILL

アントニー・ゴームリー インタビュー 「身体が空によって満たされるとき」

聞き手・翻訳:アートフロントギャラリー/テキスト・編集:NPO法人越後妻有里山協働機構

20 February 2026

アントニー・ゴームリーは、現代彫刻を代表する最も重要なアーティストの一人です。身体を通して人間と自然、空間、そして宇宙との関係を一貫して探究してきました。ゴームリーにとって、「彫刻とは何か」という問いは、「人間とは何か」という根源的な問いと密接に結びついています。彼は彫刻を単なる物体としてではなく、身体的な存在や空間的経験を通して思考するための方法として捉え、「つくる」という行為そのものが、人類史の基盤を成してきたと考えています。

ゴームリ―は、越後妻有では、2009年に民家を用いた《もうひとつの特異点》を、2024年には高龍神社において信濃川の石による《MAN: ROCK Ⅴ, 2024》を恒久設置しており、人の営みと自然が長い時間をかけて重なり合ってきた場所において、身体、建築、風景を結びつける作品を展開してきました。

《FILL》はこの地における三作目となります。作家自身の身体を型取り、鉛を用いて制作された初期の本作は、ゴームリーの思考の原点を示す重要な一点です。身体の内部に潜む闇と外部に広がる空や光との対比を主題とし、伝統的な彫刻に見られる直立した英雄的身体像に異議を唱え、身体を地球や惑星との関係のなかに置き直す試みでもあります。ヴァーチャル化が進む現代にあってなお、ゴームリ―の作品は、物質としての彫刻を通して、私たちと大地との関係を静かに問いかけています。

「越後妻有里山現代美術館 MonET」での《FILL》の公開にあたり、ゴームリー本人へのインタビューを行いました。

プロフィール

アントニーゴームリー

1950年、イギリス・ロンドン生まれ。人間の身体と空間との関係を探求する彫刻、インスタレーション、パブリックアート作品で広く評価されている。彼の作品は、1960年代以来、彫刻が切り開いてきた可能性を、自然や宇宙との関係において人間の立ち位置はどこにあるのかという根源的な問いに向き合う形で、彼自身や他者の身体との批評的な関わりを通して発展させてきた。ゴームリーは、新しい行動、思考、感情が生まれる場所として、芸術の空間を捉え続けている。

◀越後妻有里山現代美術館 MonET
建築設計は、札幌ドーム、京都駅ビルなどを手がけた原広司+アトリエ・ファイ建築研究所が担当。中央の池と吹き抜けを回廊が囲む、求心力のある空間が特徴。越後妻有の風土文化の特き合う作品、あるいは展示された場所の空間、間の変を観るに体作品展示
Photo by Kioku Keizo

Q:《FILL》はあなたにとってどのような意味をもち、また越後妻有になぜ本作を選ばれたのですか?

彫刻というのは、これまで多くの場合、空に向かって垂直に立ち上がるものを建てることで、その場所を「印づける」行為でした。でも私は、もっと大きな空間全体と関わりながら、身体と大地をつなぐような作品をつくりたいと考えてきました。《FILL》は、身体が空によって満たされる、そんな感覚を示唆する作品であってほしいと思っています。

この作品は、私が鉛を使って制作したごく初期の作品のひとつで、1984年にニューヨークのサルヴァトーレ・アラ・ギャラリーで行った最初の個展で発表しました。初期の鉛による身体のケース状の作品の多くには、生命にとって重要な「境界」となる部分に穴が穿たれています。

その直前に制作した三部作《Three Calls: Pass, Cast and Plumb》は、私たちが世界と関わるための3つの基本的な方法——思考、言葉、そして行為——を示したものでした。《FILL》では、知覚と自然の要素とのあいだにある、より根源的な関係を扱っています。

Photo by Nakamura Osamu

Q:越後妻有の3作品のあいだに、思想的あるいは造形的な連続性や発展はありますか?

これらはいずれも、人間の生、知覚、感情の在り処を、未知に開かれた空間として扱っています。光がいかに形態を明らかにするかという点に焦点を当ててきた彫刻の伝統とは対照的に、存在の空間をより大きな空間と連続するものとして捉えようとしています。そして常に、身体の表象ではなく、その痕跡との関係において考えられています。

MAN: ROCK Ⅴ, 2024
大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2024

Q:初めて越後妻有を訪れたときの印象を教えてください。

 

もうひとつの特異点》の制作全体の経験、地域の方々との協働、そしてご自宅をプロジェクトに託してくださった温かいご家族との出会いは、私に深い印象を残しました。その手づくりの家の床に横たわり、家を建てた男性の娘さんの一人とともに、屋根を支える大黒柱を見上げながら、その木が彼自身と村人たちの手によって森から切り出され、運ばれてきたという話を聞いた記憶は忘れがたいものです。積雪が6mにも達する冬をどのように乗り越えたのか、一階の扉を使うのをやめ、二階の窓から出入りしていたという話も、いまなお心に残っています。新潟県の山々における暮らしの物語、そして本州北西部に生きる人々の強靭さと創造性に、私は驚嘆し、強く鼓舞されました。

芸術と内省とが、この地域の人間的・建築的構造と織り込まれている越後妻有のプロジェクトの志の高さを、私は愛しています。その一員となれたことを、たいへんな特権だと感じています。

もうひとつの特異点
大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2009
Photo by 宮本武典+瀬野広美

Q:探求されてきた「身体・空間・自然」の関係性は、越後妻有の風景や人々の営みと関連があると感じていますか?

間違いなく、そう感じます。アルゴリズムによる制御が強まり、インターネットに飽和したデジタル・コミュニケーションの世界へと進むなかで、一次的で身体的に実感できる経験をあらためて強化することは不可欠です。

私は自らの彫刻を、私たちが「世界内存在」としての経験を新たに感知することを可能にする内省的な装置だと考えています。私たちの身体は本来的に感覚のための器官であり、あらゆるものが結びついている、人間を超えた世界の一部です。私たちがすべての生命の絡み合いのなかに自らが含まれていることを認識できるのは、身体と動物的な本性を通してのみなのです。

Photo by Nakamura Osamu

Q:「彫刻とはものの原理にしたがって世界を考えるための方法」と語っておられますが、ヴァーチャル化が進む現代において、彫刻にはどのような役割や可能性があると考えていますか?

彫刻は、ものの世界に存在するひとつの「もの」です。そして、私たちが世界のなかに在るという感覚を強めます。瞬時に生成され、瞬時に陳腐化していくイメージによって視覚が絶えず強化される時代にあって、彫刻は、理解可能なものの根源としての触知できるものをあらためて確かなものにします。

私が彫刻に身を捧げているのは、それが何かの像をつくることではなく、ものから成る世界を変化させる「もの」をつくる営みだからです。世界を表すのではなく、世界のなかで、そして世界に作用する作品を生み出すこと。それが私の制作の核心なのです。


この春は、《FILL》に加え、越後妻有に点在する既存の2作品もあわせて、計3作品をご覧いただけます。ぜひ現地で、作品が放つ存在感と、その場に満ちる空気を体感してください。
※積雪状況により公開状況が変更となる場合がございます。最新情報は公式ホームページをご確認ください。

施設情報

越後妻有里山現代美術館 MonET

越後妻有の風土文化の特き合う作品、あるいは展示された場所の空間、間の変を観るに体作品展示しています。

時間|10:00-17:00(最終入館16:30)※火水定休
料金|入館料常設展一般1,000円、小中500円 企画展(常設展示含む)一般1,200円、小中600円 ※期間によっては作品鑑賞パスポートや共通チケットを販売
住所|新潟県十日町市本町6-1-71-2

作品紹介1

もうひとつの特異点

壁や床を取り払い、構造を露わにした空間に682本のコードが張り巡らされ、中央のマトリクスに作家自身の身体が浮かび上がる。宇宙の起源—137億年前に質量・空間・時間が生まれた瞬間—を象徴的に表現した作品。(大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2009)

開館2026/4/25, 26, 29, 5/2, 3, 4, 5, 6、10:00-17:00
入館料 一般400円、小中学生200円 
住所 新潟県十日町市戊913 

作品紹介1

MAN: ROCK Ⅴ, 2024

自然に形成された信濃川の石に、作家自身の身体の形が刻まれ、社の手水舎を参考にした建築に囲まれて配置される。人類と地球の関係を問いかける、ドローイングと造形の境界に位置する石彫作品。(大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2024)

休館 |祝日を除く火水、冬季  ※積雪状況により公開状況が変更となる場合がございます。最新情報は公式ホームページをご確認ください。
住所 |笹山高神社 新潟県十日町市中条乙2581ー甲 

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