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芸術 / L sub

香港ハウス 2020秋企画展

芸術 / L sub

香港ハウス 2020秋企画展

心を静める物ーStill Life Objects

撮影:NAKAMURA Osamu

16 October 2020

心を安らかにする練習

2020年10月10日、展覧会「心を静める物」が香港ハウス(*1)にてオープンしました。

高齢化が進み、集落で晩年を過ごす方も多い越後妻有ですが、高齢化という社会問題に直面するのは、香港や他の地域も同じこと。人は老年をどうしたら安らかな心で迎えられるのだろうか。そこに着目した香港出身のアーティストチームL Sub(*2)は、香港のホームレスの人たちに寄附をする周さん、お堂の管理をしている宝鳳さん、社会運動に注目している唐さんの3人の年長者(平均70歳)を選び、彼らの経験をもとにして、日常から物と音声を収集し3組の作品を制作しました。

*1:香港ハウス、及び越後妻有と香港の繋がりについて

大地の芸術祭と香港の繋がりは長く、2006年から香港大学の学生たちがサポーターとして長期滞在し、作品制作をサポート。2015年からは、持続可能な農業と文化のプラットフォーム構築を目指し、香港の若手農家や中高生が長期滞在しながら地域の農業とアートを体験した。2018年には、香港の福祉団体・聖雅各福群会(St. James Settlement)の障がいのあるアーティスト数名を迎え、陶芸交流イベント、展覧会を展開。同年、津南町上郷地区に香港特別行政区政府の出資によって文化交流拠点「香港ハウス」が誕生。通年でプログラムを実施し、公募で選ばれた香港の作家が滞在制作し、作品を展示する。

住職と老人ホームの責任者を兼任する宝鳳さんは、夕方に念仏を唱える。ここから作家はヒントを得て、マッサージチェアや電動歯ブラシなど、3人が心安らぐというものから音を集め「眠るときに聴く曲」を作り放送する。また就寝前の1時間に収録した音声を交換する企画を実施し、香港と日本で「心を静める音声」をシェアする。

*2:作者 L Subについて

2012年、イム・スイフォン、ウェンディ・ウ、パク・シェンチュン、ライ・カーイーにより結成されたアーティストチーム。世界各地のコミュニティに赴き、当地の住民と一緒に制作し、日常をアートに変換するアーティストチームです。彼らは優しい方法で、人とコミュニティの温度を伝え、アートを創作する力をアーティストから民衆に返す。

本展覧会では、例えば、裁判の傍聴をする、夕方に念仏を唱えるなど、3人の年長者それぞれの心を安らかにする行為やその物語をモチーフにした、参加型アートを展開します。そして参加者には、日常に心の支えを見い出し、生活の細部から心を安らかにすることを促します。参加者は「心を安らかにする練習」ができる、香港と津南の物語が織り込まれた展示です。

唐さんは度々社会運動案件の裁判の傍聴のために並び、色付きの番号札を受け取る。そして重い刑に処された若者のためによく涙を流すという。人生は思うままにいかないけれど、厳粛な法廷に自分の居場所を見つけた唐さん。カラフルな番号札を何枚もため込み、傍聴席で涙を流してはネガティブな感情を発散する。その札の束を見た作家は、カラフルな番号札と紙を破る動作を繋げ、展示のモチーフにし、さらに涙(tear)を破る(tear)行為に変える=感情を行動に転化させるワークショップを考案。

2020年は特別な年であり、新型コロナウイルスが私たちの今までの穏やかな生活を打ち破りました。外出、移動が制限され、経済が大きな打撃を受け、世界は私たちの知らないところに向かっています。このような状況の中でこそ、私たちは言語や国籍の違いを超えて、人類として共感を持つことができるのではないでしょうか。

裏庭は、ソファに座って、ゆっくりと時間を過ごすためにつくられた空間。天井のライトは香港やその他の国からネットワークを通じて調光が可能な、インタラクティブな参加ができるライト・インスタレーション。(開館時間のみ)

中国語には「以不変応万変(不変をもって万変に応ずる)」という言葉があります。今回のパンデミックは自分自身とより向き合う機会になりました。心の安らぎこそが、激しく変化している世界に直面する最強の武器なのかもしれません。日本と香港は同様に、少子高齢化の問題を経験しており、この展覧会は平和な年代に生きてきた若者に年長者の知恵を伝える機会でもあると思います。

2階には周さんのお店から購入した寝具を展示し、寝具の隅には「就寝前の1時間、音声交換企画」に参加した方々のデータをアイロンプリントした。QRコード付きで「心を静める音声」を読み取った後、裏庭に座ってじっくりと聴くことができる。

冬が近づいている中で、香港ハウスで人々の暖かさが感じられるではないでしょうか。

Information

香港ハウス

香港との恒常的な文化交流拠点となる滞在制作兼ギャラリー施設。設計は2012 年ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展などで注目を集める若手建築家チーム、イップ・チュンハン(葉晉亨)が公募で選定された。年間を通して香港の大学、文化機関、自治体などと連携しながら多彩な地域交流プログラムを継続的に展開するほか、コンペで選ばれた作家、パフォーマー、文学作家などが滞在制作し、作品展示を行う。会期中はさまざまなイベントが催される。

【会期】10月10日~11月1日の土日 10:00~16:00
【料金】一般500円、小中250円(上郷クローブ座との共通券)、または秋の共通パスポート提示で無料
【住所】日本新潟縣中魚沼郡津南町大字上鄉宮野原29-4
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