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特集 / ディレクターズコラム

大地の芸術祭あれこれ⑥(執筆6/20)

北川フラム(『美術は大地から』編集長 / 「大地の芸術祭」総合ディレクター)

4月29日から145日間にわたる「越後妻有 大地の芸術祭 2022」が開幕。それにあわせて、今回の新作や見どころや”あれこれ”を、総合ディレクター・北川フラムが綴る新連載「大地の芸術祭あれこれ」がスタート。

文:北川フラム

24 June 2022

先日、アメリカはチェロキーインディアン出身のジミー・ダーハムのメモリアルツアーを行い、彼が選んだ松之山は大厳寺高原の山端にあるサイトに行ってきました。雨上がりで山なみに漂う霧が少しずつ払われていくなか、気持ちのよい一日になりました。そこは人がキャンプをした名残がある場所で、その気配をそのままに、地表には奥に大切な世界があることを想像させる白い鍵がかかった鉄の扉と、白い配管が設置されているだけのものですが、人が生きてきた証を尊厳をもって感じさせてくれるものでした。「(タイトルは記号のため写真参照)」(2000年)という作品です。

ジミー・ダーハム作品(2000年)photo ANZAÏ

ジミー・ダーハムの作品タイトル(記号)

近くには南アフリカのケンデル・ギールの「分岐点だらけの庭」(2000年)があり、この檻のような建築物には十年以上かけて初めてツタが絡まりいい感じでした。故・眞板雅文さんの「悠久のいとなみ-The Eternal」(2000年)は、奥に続く一本のブナの木を見るためのスチールの門と構造物も高原ののびやかな山腹にあって美しい。植松奎二さんの「大地とともに—記憶の風景」(2000年)は山つつじの花咲く斜面にドカンと古代の記憶のように横たわっていて、大厳寺高原は夢のような、これまた妻有地域の一面を見せてくれるのでした。時間を見つけてゆっくり楽しんでください。

ここから国道405号を通れば津南は指呼の間にあります。津南駅側に降りるのも、たくさん作品があるマウンテンパークに行くのもよし、そこからかたくりの宿にある原ユニットの「妻有双六」(2021年)や、竜ヶ窪の加治聖哉の「廃材水族館:竜ヶ窪」(2022年)へ行く道は長野県境のダイナミックな光景を味わえます。この土・日はお勧めの86B210の公演「震える空~Vibrating Sky」があるので、あわせて計画をたててください。山渓の素晴らしい世界をゆっくりとした行程をたてて回ればゴールデンコースです。

原倫太郎+原游「妻有双六」photo Kioku Keizo

加治聖哉「廃材水族館:竜ヶ窪」(2022年)photo Kioku Keizo

この日、偶然にもドイツのカッセルの文化駅にあるKAZではジミー・ダーハムの追悼イベントが行われました。参加者は、スパークリングワインを飲み、1992年のドクメンタでリンゴの木を植えた公園まで歩いて行き、あらたに植樹されたリンゴの木の下で、それぞれが自分の好きなダーハムの詩を読んだそうです。ダーハムはドクメンタで、ナチスの時代に収容所でリンゴ栽培に従事した反ナチスの神父コルビニアン・アイグナー(1885-1966)に触発されて、リンゴの木を植樹し、リンゴジュース瓶のラベルを描いています。

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