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特集 / ディレクターズコラム

大地の芸術祭あれこれ③(執筆4/27)

北川フラム(『美術は大地から』編集長 / 「大地の芸術祭」総合ディレクター)

4月29日から145日間にわたる「越後妻有 大地の芸術祭 2022」が開幕する。それにあわせて、今回の新作や見どころや”あれこれ”を、総合ディレクター・北川フラムが綴る新連載「大地の芸術祭あれこれ」がスタート。

文:北川フラム

29 April 2022

芸術祭開幕を控えて実行委員会正副会長の関口芳史十日町市長、桑原悠津南町長との三者会談が行われました。コロナ対策をきちんと行うこと。行ってよし、来られてよしの、観光と感幸をやっていくこと。長丁場を緩みなく乗り越えること等が確認されました。

会期前、スタッフは気合が入って、良い雰囲気です。パスポート早期割、サポーターの応援等、数字は前回に比べて少ないですが、これは永いコロナ禍で分かっていたこと。「頑張っていきまっしょい!」

残念なお知らせ、お詫びがあります。4月21日頃、団体ツアー客がクワクボリョウタさんの≪LOST#6≫作品、カールステン・ニコライさんの≪Wellenwanne LFO≫を一部壊してしまいました。被害届を出し事務的に作業は進めていきますが、特にクワクボさんの作品は織物の部品、民具などデリケートな材料を超絶技巧で作りあげているために、制作に時間がかかり、アーチストにきついスケジュールをお願いすることになります。なるべく早くの出来上がりを望むだけですが、クワクボさん、お客様に申し訳ありません。残念です。

クワクボリョウタ「LOST #6」(2012年)Photo Nakamura Osamu

今ひとつお知らせがあります。4/29から鑑賞可能とお知らせしてあるうち、下記の作品が豪雪のあとの雪解けが出来ず、観ることができません。地域の人たちと雪割りなども考えましたが、無理でした。

【6/2からの公開となった作品一覧】
N002 ジャン=フランソワ・ブラン「ブルーミング・スパイラル」
N017 白羽毛集落のこどもたち+青木野枝「LIKE SWIMMING」
D052 郷晃「回廊・・・時の水脈」
Y025 ジェニー・ホルツァー「ネイチャーウォーク」
M026 グァン・ファイビン(管懐賓)「時を越える旅」
M011 キム・クーハン(金九漢)「かささぎたちの家」
M028 リン・シュンロン(林舜龍)「国境を越えて・山」
A003 川口豊・内藤香織「径庭プロジェクト」

ガイドブックでは観られることになっているが、4/29には無理です。6/2には大丈夫ですが、観られるようになったらそれぞれご報告します。

今日もこれから作品チェックに回ります。今回の特別展≪大地の芸術祭2000-2022 追悼メモリアル ― 今に生きる越後妻有の作家たち≫の第1回目は、ジャン=リュック・ヴィルムートですが、このためにパリのボザールから協働したこともあるクレリア・ゼルニックが来て下さり、最後のチェックをして下さいます。ありがとう! ヴィルムートは仕事の中心でアートをオブジェから人々の交流へと動かしていった大アーチストで、妻有も気に入って貰っていましたが、延べ100回以上来日していました。そんな氏のささやかな追悼展のために、今、こちらに来て下さる人がいるのです。嬉しいことです。

昨年も開かれた、コロナ禍のアーチストからの便りを紹介するメールアート展も奴奈川キャンパスとギャラリー湯山(夏会期から)で開かれます。全部で約400点。見応えがあります。ゆっくり見て下さい。前々回からのターニャ・バダニナの≪レミニッセンス(おぼろげな記憶)≫は理科室の壁にガラス製のビーカーやフラスコが美しく並べられていて、相変わらず美しい空間でしたし、前回のコウ・ユウ(高瑀)の≪天上大風≫も蛾眉山と良寛の関わりに触れた気持ちの良いものでした。

前山忠×湯山メールアート・プロジェクト「世界をつなぐメールアート・プロジェクト」 photo Kioku Keizo

さらにロシアのアレクサンドル・ポノマリョフが誰のものでもない南極で13か国19人のアーチストとともに2017年に行った「南極ビエンナーレ」の記録展示と映像(アリョーナ・イワノワ=ヨガンソン)と模型は、この時代、最近の情況を経験してみると理想に向かう素晴らしいものだったことがよく分かります。1911年のアムンゼンの南極到達のあと日本の白瀬矗との出会いがあり、奴奈川出身の小堺一機の父親(の小堺秀雄)が日本の南極越冬隊の料理人になったというのも奇縁ですね。奴奈川キャンパスの校長の鞍掛純一さんの作品もあり、ここは面白いです。

松代地区では豊福亮さんの≪黄金の遊戯場≫がとんでもなく凄い。今回は前回から一層ジャンプアップして何て言ってよいか分からない。仏像、家具、中国の置物、スロットマシーン、ネオン、シャンデリア、電動の列車、バリのお面、伎楽面から自由の女神、ベトナムの水上劇の人形、ギリシャ彫刻、大黒天・泰西名画などありとあらゆるものが天井・壁・部屋にぎっしりと所を得て収まっていて、しっかり見ると何時間もかかります。

豊福亮「黄金の遊戯場」(2015-2022年)

これとは対蹠的なのが下条地区の上新田公民館。1階はカン・アイランによる田中文男文庫の落ち着いた空間、2階は河口龍夫さんの黄色い部屋≪農具の時間≫で浮遊する農具が約30点のスッキリした展示ですが、ここに人間と農具の濃密で親しみ生きてきた時間がわかる気持ちのよいものです。ぜひゆっくり過ごして下さい。名作だと思います。

北川フラム

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